高齢の親が遠慮や強がりを見せるとき:離れて暮らす家族のための本音を見守るコミュニケーション
離れて暮らす親の「大丈夫」に隠されたサインを見つける
遠方に住む高齢の親御さんのことを案じ、「何か困っていることはないか」と尋ねても、「大丈夫だよ」「何も変わったことはないよ」という返答が返ってくることは少なくないでしょう。親御さんとしては、子供に心配をかけたくない、迷惑をかけたくない、といった思いから、つい遠慮したり、強がったりしてしまうことがあります。
しかし、その「大丈夫」の裏に、本当は助けが必要なサインや、心に抱える孤独が隠されている可能性も考えられます。多忙な日々の中で物理的に頻繁に会うことが難しい場合、どのようにすれば親御さんの本当の気持ちや状態を理解し、必要なサポートができるのでしょうか。
この記事では、高齢の親御さんが遠慮や強がりを見せる背景を理解し、離れていても本音や必要なサインを見守るための具体的なコミュニケーション方法と見守りのヒントをご紹介します。
高齢の親が本音を隠す背景にあるもの
高齢の親御さんが自身の状況について全てを話さないのには、いくつかの理由が考えられます。
- 子供に心配や迷惑をかけたくない: これが最も一般的な理由かもしれません。自立している姿を見せたい、心配させたくないという気持ちが強いです。
- 弱みを見せたくない、プライド: 年齢とともにできることが減ることに抵抗を感じ、弱みを見せることをためらう場合があります。
- 変化を受け入れたくない: 体調の変化や生活の困難を認めることが、自身の老いを認めることにつながると感じ、無意識に避けていることもあります。
- 相談しても解決しないと思っている: 相談しても遠方の家族にはどうすることもできないだろう、と諦めている場合もあります。
- 具体的に何に困っているか自分でも分からない: 漠然とした不安や不調は感じているものの、具体的にどう言葉にすれば良いか分からない、という状況も考えられます。
これらの背景を理解することで、頭ごなしに「なぜ話してくれないのか」と責めるのではなく、親御さんの気持ちに寄り添った見守り方が見えてきます。
「大丈夫」以外のサインに気づくための視点
親御さんの本当の状態を知るためには、言葉の内容だけでなく、話し方やその他の情報にも注意を払うことが重要です。
- 声のトーンや話し方: いつもより声が小さく元気がない、話すスピードが遅い、ため息が多いなど、声の調子や話し方から感情や体調の変化を感じ取ることができます。
- 会話の具体的な内容: 具体的なエピソードが減り、「何も変わらない」といった抽象的な返答が増える、特定の話題(外出、食事、友人との交流など)を避けるようになる、といった変化がないか注意します。
- 同じ話を繰り返す: 認知機能の低下の場合もありますが、寂しさから繰り返し話を聞いてほしいという気持ちの表れかもしれません。
- 過去の話ばかりする: 現在や未来の話よりも、過去の楽しかった思い出話が増える場合、現在の生活への満足度が低い可能性があります。
- 返信の頻度や時間帯(電話・メッセージの場合): 以前はすぐに返信があったのに遅れるようになった、決まった時間にかけても出ないことが増えたなど、連絡頻度の変化もサインになり得ます。
- 第三者からの情報: 可能であれば、地域の民生委員やケアマネージャー、親戚、親しい友人、近所の信頼できる方などから、親御さんの日常の様子について情報が得られないか検討します。
これらのサインは単独では判断できませんが、複数のサインが見られた場合や、普段の様子と比べて違和感がある場合は、より注意深く見守る必要性を示唆しています。
本音を見守るためのコミュニケーションの工夫
遠慮や強がりがちな親御さんから本音を引き出すのは容易ではありませんが、無理なく情報を得るためのコミュニケーションの工夫は可能です。
- 安心感を与える雰囲気作り: 責めるような口調や、問い詰めるような質問は避け、まずは親御さんの話を「聞く」姿勢を大切にします。「何かあったら力になるよ」「いつでも話を聞く準備があるよ」といった安心感を伝えることで、話しやすくなることがあります。
- 直接的な質問を避ける: 「何か困っていることは?」と直接聞く代わりに、「最近〇〇の調子はどう?」「△△さんは元気にしてる?」のように、具体的な話題から入り、会話を広げていく方法が有効です。「そういえば、この前××でこんなことがあってね」のように、まずはご自身の日常のちょっとした話をするのも良いでしょう。
- 共感と理解を示す: 親御さんが何かを話してくれたら、それが小さなことであっても否定せず、「そうだったんだね」「大変だったね」と共感を示し、受け止める姿勢を見せます。
- 短い連絡を頻繁に: 長電話やまとまった時間を作るのが難しくても、短い電話やメッセージを定期的に送ることで、親御さんにとって「いつでも連絡が取れる」という安心感が生まれます。他愛のない日常の話題でも構いません。
- 「頼る」機会を作る: 子供から一方的に「大丈夫?」と心配するだけでなく、「この前教えてもらった〇〇のやり方をまた教えてくれない?」「△△について親さんの意見を聞かせてほしいんだけど」のように、親御さんを「頼る」ことで、貢献感を持ち、会話のきっかけにもなります。
- 共通の話題や興味を探る: ニュース、趣味、昔の出来事など、親御さんが話したいと思う話題を見つけることで、会話が弾み、自然な流れで現在の生活の話になることもあります。
- 手紙や写真の活用: デジタルツールが苦手な親御さんには、手紙や絵葉書を送るのも有効です。直接会えなくても、形として残る便りは親御さんに安心感を与え、返事を書くことで近況を知らせてくれることもあります。
情報収集を補完する他の方法
親御さんからの情報だけに頼らず、可能な範囲で他の情報源を組み合わせることも検討します。
- 地域包括支援センターへの相談: 地域の高齢者福祉に関する総合相談窓口です。親御さんの地域を担当するセンターに連絡を取り、親御さんの状況について相談に乗ってもらえるか、どのようなサービスがあるか情報収集ができます。
- ケアマネージャーやヘルパーとの連携: もし親御さんが介護保険サービスを利用していれば、ケアマネージャーや自宅に来るヘルパーから、日常の様子について話を聞くことができる場合があります。(個人情報保護に配慮した範囲での情報交換となります。)
- 民間の見守りサービス: 定期的な安否確認電話や、センサーによる見守りサービスなど、様々な民間サービスがあります。これらのサービスから提供される情報も、親御さんの日常を知る上で役立ちます。
- 近所の方や親戚とのゆるやかな連携: 親御さんの同意が得られれば、近くに住む親戚や、日頃から交流のある近所の方に、時々様子を見てもらうようお願いすることも一つの方法です。
これらの複数の情報源からの情報を総合的に判断することで、親御さんの「大丈夫」の言葉だけでは見えなかった状況が把握できる場合があります。
継続できる無理のない見守りを
親御さんの本音を見守ることは、一朝一夕にできるものではありません。また、全てのサインを見つけ、全ての困りごとを解決しようと意気込むと、家族側の負担が大きくなってしまいます。
大切なのは、完璧を目指すのではなく、できる範囲で継続することです。週に一度の電話、月に一度の手紙、たまの短い帰省など、ご自身の生活や仕事と両立できるペースで関わりを持ち続けることが、親御さんにとっては一番の安心につながります。
親御さんが本音を話してくれたときは、その気持ちを受け止め、感謝の気持ちを伝えましょう。そして、もし具体的な困りごとであれば、一緒に解決策を考える姿勢を示すことが重要です。
離れていても、親御さんのことを思い、気にかけている気持ちは必ず伝わります。焦らず、しかし諦めずに、温かい心で見守りを続けていきましょう。
地域包括支援センターや市区町村の社会福祉協議会など、公的な相談窓口も活用しながら、無理のない持続可能な見守り体制を築いていくことをお勧めします。